好きよりも、キスをして


「(あ)」

「あ」



突然に、当の本人が目の前に現れる。

教室の出入り口で鉢合わせた俺たち。俺が避けようと移動すると、澤田も同じタイミングで、一緒の方向に動く。


避けた先に相手がいる――これを何度か繰り返した。



「(相性よすぎだろ!もう何回目だよ!)」



そう思った時だった。



「……ぷ、ふふ」



笑い声が聞こえた。その声は明らかに澤田から聞こえていて――思った以上に、可愛い声だった。



「(って、可愛いって……バカか俺は。何考えてんだ)」



いつも夢の中で聞いてるから、澤田の声は知っているはずなのに。今さらなんて変だろ。何が“ 可愛い声”だよ。



「(しっかりしろ、俺)」



付き合ってる彼女の事は、どんな事でも可愛く見える――みたいに思う彼氏じゃねーんだ俺は。そもそも上辺だけの「お付き合い」だしな。

< 79 / 282 >

この作品をシェア

pagetop