好きよりも、キスをして

ボーッと考えていた瞬間、先生に「じゃあ澤田」と指名された。やばい、全然聞いてなかったから分かんない……。

こういう時に、友達の一人や二人いれば「ここだよ」とか教えてくれるんだろうけど……私は、友達がいない。


入学して日が浅いからとか、そんな理由じゃない。私の雰囲気が、人を寄せ付けないからだと思う。



「澤田ー?どうした?」

「(やばい、やばい……っ)」



沈黙を貫いている私に、先生が首を傾げながら聞いてくる。私は小さくなりながら「わかりません」と言った。


そう。言った、つもりだった。


だけど、他の人が聞いたら、私の声は無音らしい。先生が「おーい?」と未だに解答を求めてくる。

私は最後の望みで、縋るように先生の目を見た。だけど返ってきたのは、先生の「はぁ」というため息と、呆れた声だった。



「澤田、いつも大きい声を出さないと何も聞こえないぞー。分からないなら、それでもいいから”分かりません”くらい言ってみろ」

「!」



なにもクラスの皆の前で、そんな事を言わなくたって……!

私の顔が、一気に熱を帯びるのが分かった。皆の視線が集まっている。私に穴が開くのかってくらい、見られている。

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