好きよりも、キスをして
「(何を企んでいるんだか……)」
はぁ――とため息が出そうになるのを我慢する。
そうだ、ここは学校。夢の中とは違うんだ。
喋れない俺に、喋らない澤田が話しかけている構図が珍しいのか――クラスメイトの視線は、ほぼ俺たちにあった。
言わば「見られている」。
そんな状況で、夢の中のように澤田に接するわけにはいかない。努めて穏便に「なに?」という意味を込めて、ニコリと笑って首を傾げた。
だけど皆の視線なんてお構いなしなのか――澤田は、やっぱりニヤニヤした顔を隠そうともしない。
いや、きっと本人的には隠してるつもりなんだ。口元が少し引きつっている。必死に笑みを押し殺そうとして、だけどやっぱり隠し切れずに漏れ出ている。今の澤田の笑みは、そんな感じだ。
おいおいおい。
一体何をしでかす気なんだよ。
俺は学校では「喋れない奴」以外で目立ちたくはねーんだよ。早く自分の席に戻れよ。お前と犬猿の仲のあの沼田さえ見てるぞ、お前のこと。
涼しい顔で笑う俺。だけど、内心は滝汗ものだった。
何しろ、澤田の考えが読めない。壊滅的に。ただノートを渡しただけで何も言わないし、何も行動に移さない。
「(……まさか)」