好きよりも、キスをして

ここまで考えてハッとする。


コイツ、まさか演技をしているのか?


ノートが手から滑って俺の机の上に落ちましたって……。そういう演技をしてんのか?それが俺への嫌がらせになると思って?



「(いや、まさか。いくら澤田でも、そんな馬鹿なことは考えないだろ)」



だけど澤田は、脈絡もなく、俺の前から姿を消す。アイツの後ろ姿を目で追うと、どうやら自分の席に帰ったらしい。



「(は?)」



まてまて。おい、待て。

なんだよ、このノートは。

どうすんだよ、クラスの空気は。


後始末の全部を俺に放り投げて、それで嫌がらせをした気になってんのかよ。クソ、意味わからねぇ。なんだ、あの女……。



ジリジリと、言葉にならない怒りが湧いてくる。クラスの人も「結局あのノートは静之くんの、って事?」と理解に苦しんでいるようだった。

なんて振る舞おうか迷っていると、始業のチャイムがなる。すぐに先生が教室に入ってきたため、皆の視線は俺から外れた。


ホッと息をつく俺。その時に盗み見た澤田は、沼田に何かを言われても無言を貫いているようだった。

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