好きよりも、キスをして
頭と心が一通り整理出来たところで、立っている枝垂坂に合わせて、俺も席を立つ。「何か用?」とゆっくり口パクで伝えると、今度は彼女が首を傾げた。
「ごめん、紙に書いてもらってもいい?口の動きだけじゃ分からなくて……」
「(ごめんね、もちろん)」
手で「ごめん」のポーズを作って、机の中の一番上にあったノートを手に取る。
澤田の青のノートをカバンに入れておいてよかった。小さいから、机からポロッと落ちそうなんだよな。
その瞬間をクラスの皆に見られても面倒だし。
「澤田の渡したノートを大事そうに持ってるぞ」なんて言われたら、たまらない。
「(そういや、スマホで文字打ってもよかったな。書くのは手間だ)」
澤田がノートにメッセージを残したのを見たから、何の疑問も持たなかった。次からはスマホにするか。
サラサラと、ノートにペンを走らせる。澤田は、一発で俺の口パクを理解してくれたのにな――なんて、そんな事を思いながら。
――ごめんね。何か用だった?