好きよりも、キスをして
「(夢の中でグチグチ言われそうだなぁ……)」
はぁと息が漏れそうになった時。隣を歩く枝垂坂が「皆に見られてるね」と嬉しそうにほほ笑んだ。その時、俺は初めて、自分が目立っているという事に気づく。
俺と枝垂坂が並んで歩いているのは、相当珍しいらしい。
そりゃそうだ。なんせ初めての事なんだから。
廊下にいる奴はもちろん、教室内にいる奴らまでもが、俺らを見ようと顔を覗かせている。
「(注目を浴びてる……。めんどくせぇ)」
早く学校から出たい。
そんな俺の希望は叶わずに、校門まで来たところで枝垂坂は止まる。あと一歩で学校を出られるのに?と不思議に思い立ち止まる俺。枝垂坂は辺りをキョロキョロ見回し、俺のことなんてお構いなしだった。
「ここで待とうか」という彼女。一体、何がどういうことだ……。
そろそろ説明してほしくて、トントンと肩を叩く素振りをする。
すると、そこでやっと俺の存在を思い出したらしい枝垂坂が、「あ」と短く声を漏らした。