好きよりも、キスをして

「ごめん、実は元カレがしつこくて……」

「(元カレ?)」



小首をかしげた俺に、枝垂坂は

「元カレね、他校の人なんだ」と言う。

俺の質問に答えたのか、説明する上で必然だったのか……。どっちつかずな言葉だった。



「よく言う性格の不一致で別れちゃったの。私が別れを切り出して……。だけど、なかなか諦めてくれないの。だから、静之くんに協力してほしくて……」

「(協力?)」

「協力っていうのはね、彼氏のふりをしてほしいの!今だけでいいからッ」

「(……あぁ、そういうことか。あほクサ)」



喋れないっていうのは不便だけど、こういう思いの丈を口にしたところで相手に届かないのが良い。

今だって、俺が喋れないからこそ、自分が虫けらのような目で見られているなんて。枝垂坂も気づかないんだろうな。


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