好きよりも、キスをして

口元に手を持っていく。

そして失笑が漏れた瞬間、枝垂坂が「笑った!やっぱりカッコいいね」と、笑顔で俺の心を切り裂いていく。



「(お前への絶望の笑みだってこと、気づかないんだな)」



そうやって、他者の言動に鈍感なまま生きていける奴もいる。枝垂坂なんて、その筆頭だ。


だけどな、俺は違うんだよ。


話せない分、目と耳が敏感になったらしい。


相手の話し方、話す内容――それらをいちいち詮索してしまう。俺を傷つけるナイフじゃないかと、いつでも怯えているんだ。



「(そうか、怯えてるのか。だから俺は、今動けねーのか)」



喋れないだけじゃなくて、カカシよりも役に立たないと思われるのが嫌で。

心に鋭利なナイフを投げてくる枝垂坂。そんな奴にさえ、俺の存在意義を示したくて……今、ここに立っている。


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