好きよりも、キスをして
「(はぁ……アホくせ)」
この時間が、この世界が。
そして、こんな自分が。
全てすべて、嫌になってくる。
「(前も、そう思った時があったな。あの時は、)」
と、ここまで考えていた時だった。
グイッ
「(!?)」
本日二度目。俺の手は引っ張られる。
その手は、小さくて、か弱くて……。だけど、直視できないほど眩しい。
「(あぁ……こっちだな)」
そう思った。
俺はこの手と帰りたかったのだと。この手を待っていたのだと。
「(澤田)」
喋れないのに口を動かす。すると、俺が口を動かしたその瞬間――ちょうど彼女は振り返った。
そして、
「なに?静之くん」
目を奪われるような優しい笑顔で、返事をしたのだった。
静之緋色 side end