好きよりも、キスをして


青いノートを静之くんの机の上に置いた。


計画はバッチリ。

「なんだこのノート…?」って迷惑がる静之くんを見られた。


皆が見ている手前、必死に笑顔を振りまいてごまかしていた静之くんだけど……。私には分かる。


静之くんは、私がノートを渡したあの時。確実に焦っていた。



「(静之くんの、あの反応。皆が見ている中で、どう振る舞おうか悩んでいる姿。ふふ、面白かったなぁ)」



満足げに自分の席に帰ると、隣の沼田くんが「今のなに?」と不可解な顔で私を見る。私は少し沼田くんを一瞥した後、考えた。


あのノートは……ただの仕返しの道具。


だけど、そんな事を言えるわけはないので、いつもの沈黙よろしくで乗り切った。


隣で「おいまた無視かよ」なんて小言が聞こえるけど、もういいや。

今は静之くんへの思いでいっぱいで、沼田くんの言葉は、私へのナイフにはならなかった。

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