惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「じゃあ、行ってくるね。戸締まりだけよろしく」
「はーい。行ってらっしゃい」
閉店後、めかしこんでいそいそとデートに向かう栞里を見送ると、麻里は一人で近所の焼き鳥屋に向かった。
カウンターに座り、レバーとレモンサワーを注文する。飲みたい気分の時は大体このメニューだ。
「お姉ちゃんは気を遣う方向が間違ってるんだよな……」
麻里は誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
デートくらいこちらに気兼ねせず行けばよいのに、本当に世話が焼ける。店のことはともかく恋愛では自分を優先してもいいんじゃないかと思う。
SAWATARIは姉妹による共同経営方式を取っている。これまで互いの得意なこと苦手なことを上手く分け合い、バランスをとってきた。
短大卒業後に長らく銀行で窓口業務に従事していた栞里。惣菜店時代のレシピを全て記憶している麻里。
互いの領分は侵さないように気をつけているが、それでも衝突したら都度話し合いだ。しかし、各々の恋愛事情はその範疇にない。
なので、栞里には遠慮せず是が非でも幸せになってもらいたい。
「すみません。レモンサワーのおかわりください」
「こっちにはビールを。あとネギマとつくね」
カウンター越しに注文を伝えると、被さるように男性の声が追いかけてきた。隣にある椅子が引かれ、空席が埋まる。
「俺と飲みに行きたかったらちゃんと誘えよな」
「明音……?」
明音はカウンターに頬杖をつき、ニマニマと笑いながら麻里を見下ろした。