惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「なんでここに!?」
栞里に伝えたのは方便というやつで、実際には連絡すらしていないのに。
「さっきばったり栞里さんに会ってさ、俺と飯を食いに行くって言っていたことを聞いた。よく分かんないけど、適当に話を合わせておいた。感謝しろよ?」
しまった……。
まさか明音と鉢合わせするとは思ってもいなかった。同じ街に住んでいる以上、確かに可能性はゼロではない。
「助かった。ありがと……」
姉妹間で変な禍根を残しておくと後々面倒なことになる。麻里は素直に礼を言った。
「栞里さんと一緒にいたのってもしかして彼氏?」
「そ、ジローさんっていうの。槙島スカイタワーの五階にある会社で働いてるんだって」
「へえ……。あのREALNavigatorで働いてるなんて随分優秀なんだな」
自分の家の持ち物だからってスラスラとテナントの企業名が出てくるのも相当凄い。
「なんでここが分かったの?」
「女ひとりで気兼ねなく飲めて早くて安いといえばここしかない。それに焼き鳥好きだろ?」
おまけに麻里の好みまで把握しているなんて、どれだけ優秀さをひけらかせば気が済むのか。
半ば呆れていると、明音はふふんと得意げに鼻を鳴らした。
「なんだ?とうとう俺に惚れたか?」
「ねえ、それだと今まで好かれてもないのにプロポーズしてきたことにならない?」
「嫌われてなきゃ大丈夫」
お酒の力も相まって、会話が弾んでいく。
プロポーズの件を抜きにすれば、これほど気を許せる男友達はいない。