惑溺幼馴染の拗らせた求愛
結局、焼き鳥店を出たのは十一時を過ぎた頃だった。街灯の少ない薄暗い裏通りを二人で並んで歩いていく。
経緯はともあれ楽しく飲んでしまった。しかも明音の奢りだ。
「わざわざ送ってくれなくてもいいのに」
「すぐそこなんだから寄り道しても問題ないだろ。素直に送られとけよ、この酔っ払い」
「ふふっ。ありがと」
一人だとそれなりに気をつけるが、今日は明音がいるとあってつい飲み過ぎてしまった。道路に出来た小さな割れ目にすら足を取られてしまう身体を、背中から支えてもらう。
「大丈夫か?」
「あ、うん」
寄りかかったついでにクンクンとスーツの匂いを嗅ぐ。どこまでも付き纏う香ばしい匂いの正体はこいつだ。
「焼き鳥臭いよ、このスーツ」
「クリーニングに出すから気にするな」
地面に直に座られたり、焼き鳥の煙で燻されたり高級ブランドのスーツが可哀想になる。麻里は愛用のファストファッションブランドの二千円のセーターを摘んだ。
こういう時に、明音との差を感じて心臓がキュッと締まる。