惑溺幼馴染の拗らせた求愛
そうこうしている内に沢渡家に到着した。麻里はバッグから家の鍵を取り出しながら、何の気なしに明音に提案した。
「送ってもらったし酔い覚ましにお茶でも飲んでく?お姉ちゃんもまだ帰ってこないだろうし」
「誘ってんの?」
「……え?」
「なあ、俺ってそんなに男としての魅力がない?」
明音の手が麻里の頬を撫でていく。
男としての魅力がないかと聞かれたら決してそんなことはない。身長が伸び、身体もすっかり雄々しくなった上に、社会的ステータスまで完備している明音は小学生の時とは別人のように格好良くなっていた。こうして熱っぽく見つめられたら、ドキドキするくらいだ。
麻里は顔を真っ赤に染めながら、首を横に振った。
「じゃあ、どうしてプロポーズを受けてくれないんだ?」
麻里は先ほどとは一転して、プロポーズを断る理由に関しては沈黙を貫いた。
金のあるなしを比べても仕方ないと割り切れるほど麻里だって単純ではない。明音がいくら歩み寄ってくれたって、些細な価値観の違いがチクチクと麻里の自尊心を攻撃してくる。それが辛いなんて言えない。言えるものか。