惑溺幼馴染の拗らせた求愛

「美味い」
「よかったー。お姉ちゃんとはよく作るんだよ」

 この日は麻里が食事の支度をしたが、仕事が早く終われば明音が手料理を振る舞ってくれることもある。包丁を握るのはほぼ初めてらしいが、出来上がった料理の味は決して悪くない。それは麻里も知らない明音の意外な一面だった。

「ご馳走様」

 食事を終えると一旦休憩をする。座布団を枕にしてダラダラと畳に寝転がる。
 
「麻里、膝貸して」
「えー…」
「これから仕事するんだから元気をくれよ」
「仕方ないな……。五分だけだからね」

 身体を起こし膝を叩けば、明音が頭を乗せてくる。ずしりと容赦なくのしかかる重みは不快ではなく不思議と心地よい。ところが、揺れ動く髪がくすぐったくて、直ぐに我慢の限界を迎える。

「はい、おしまい」
「五分経ってないじゃん」
「だってくすぐったいんだもん」

 自動通報装置の工事日程は三週間後の木曜日だ。最短を希望していたが、作業員の都合上これ以上は早められないそうだ。
 つまり明音との生活はあとニ週間は続くということだ。
 まるで新婚夫婦のようなじゃれ合いは麻里に予想外の安らぎと平穏をもたらしていた。
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