惑溺幼馴染の拗らせた求愛
鈴菜と待ち合わせした居酒屋に行くと、四人がけのテーブル席には鈴菜の他にもう一人り座っていた。
「なんで鷹也まで……」
「俺がいたら悪いのかよ?」
「ごめーん!!槙島くんの話をしたら勝手についてきちゃって……」
一足先に居酒屋に集まっていた二人は既に一杯やっていた。麻里は鈴菜の隣に座ると、鷹也の金髪とピアスだらけの耳たぶを眺めた。記憶が正しければ最後に会った青年会の飲み会では髪色はシルバーだったはず。
「また、髪の色変えたの?」
「おう」
「こんなに頻繁に変えたら将来禿げるよねー?」
「うるせーよ!!」
鈴菜はゲラゲラと笑いながら鷹也の髪を摘んだ。二人ともそれぞれ電器店と青果店の跡取りで、言わずもがな麻里とは同級生だ。特に鷹也と鈴菜は家が隣同士の腐れ縁というやだ。
「ねえねえ。それでいつから槙島くんと付き合い出したの?槙島くんって麻里だけには心開いてる感じが可愛かったよねー。未だにそうなんだね。推せるー」
「はっ。しつこいの間違いだろ」
鷹也は馬鹿にしたように鼻で笑った。明音と鷹也は昔から言わずと知れた犬猿の仲だ。何が気に食わないのか鷹也はなにかと明音に突っかかってはその都度返り討ちにされるという恥ずかしい黒歴史を持っている。
「十年以上経っても敵視してる鷹也の方がよっぽどしつこいから。槙島くんに麻里を取られそうだからって拗ねないでよー」
「拗ねてねーし!!」
麻里は手短に同居に至った経緯を懇切丁寧に二人に説明した。空き巣に入られたあの夜、たまたま明音と飲みに行っていたこと。明音の部屋に一晩泊めてもらったこと。自動通報装置の工事が終わるまで番犬代わりに泊まりに来てくれること。