惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「本当に明音とはなんでもないの。泊まりにきてるのもあの場にたまたま居合わせた親切心で……」
「またまたそんなこと言って!!ひとつ屋根の下で暮らしてて何もないわけないでしょー?」
白状しろと脇腹を突つかれ、麻里はいささか困った。
本当に何もないんだな、これが。
麻里だって九回もプロポーズされた身で同居するなんてどうかと思った。ところが明音はいたって紳士的で、麻里が本気で嫌がるようなことはしてこない。
「だから本当に何にもないって。私達はただの友達なんだから」
無難にやり過ごそうとする麻里に対し、鷹也が反論していく。
「目に見えるものだけが全てじゃないだろう?麻里が気がついてないだけで、色々隠してるかもしんねー」
「なるほどねー。じゃあ、鷹也も隠しているだけで頭脳明晰なの?」
「悪かったな。目に見える馬鹿で!!」
漫才のような二人のやりとりに麻里は思わず吹き出した。何かを隠しているのは麻里も同じだ。麻里は明音から何度もプロポーズされているという事実を鈴菜と鷹也には意図的に黙っていた。
下手に誰かに知られて明音の評判を落とすようなことは避けた方がいいと思ってのことだ。
今は意地になっているが、明音だっていつかは目が覚める。自分に相応しい人と結婚するだろう。いつかがやってきたら笑って見送るのが自分の役割だ。……たとえ大きな痛みを伴うとしても。
麻里は笑いすぎて目尻に溜まった涙を酒と一緒に飲み込んだ。