惑溺幼馴染の拗らせた求愛
きたる日曜の早朝、鷹也が運転するミニバンが家の前までやってくる。
「マジでいるのな」
「いたらまずいのか?」
顔を合わせて早々に火花を散らす二人を麻里はハラハラしながら見守っていた。キャンプの最中どうか何も起きませんようにと神に祈るしかない。
「早く乗りなよー」
後部座席に座っていた鈴菜に促されると、ようやく二人は睨み合いをやめた。
留守番をお願いした栞里とジローに見送られ、車は発進していく。
キャンプ場までは高速道路を使って二時間ほどの距離だ。渋滞もなく、天気も晴れ。道程は順調そのものだった。ただひとつを除いては……。
「なあ、鈴菜。何で槙島が助手席なんだよ」
「鷹也の車、カーナビついてないんだから道案内が必要でしょ?私が助手席でもいいけど?」
「後部座席にこいつと麻里が二人きりなんて許さねーよ」
「ほら、こうなるじゃん?だから槙島くんに助手席に座ってもらったの」
走り出してから十分もしないうちに鷹也が座席について不満を漏らし始めた。現在の配置は運転席には鷹也、助手席に明音。運転席の真後ろには鈴菜、そして助手席の真後ろに麻里となっている。
「私が助手席に座ろうか?」
麻里は車内の平穏のために自ら挙手した。大人になったことだし、昔のようにいがみ合うこともないだろうと思っていたが、どうやら見積りが甘かったらしい。
「道案内は俺がやるから麻里は大人しく座ってろ」
「ちゃんと出来んのかよ、お坊ちゃん」
「そっちこそ黙って俺の言う通りに運転しろよ」
「ははっ。険悪ー」
他人事のようにゲラゲラと笑う鈴菜の笑い声が車内に響いていく。