惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「ねえねえ、ホットサンドもいいけど例の件もそろそろ進めようよ」
「例の件?」
麻里は明音に鈴菜が言わんとしようとしていることを説明した。
「鈴菜のところで仕入れたフルーツを使ってサンドウィッチを作らないかって前から相談されてて……」
「いいでしょ?幼馴染同士のコラボだよ」
「無理強いの間違いだろ」
すかさずツッコミを入れた鷹也を鈴菜がギロリと睨んで黙らせる。
「今どき、個人商店なんてこうでもしないと生き残っていけないんだよー。大手のスーパーには値段じゃ敵わないもん。鷹也のところも色々やってるよね。お年寄り向けのスマホの操作説明会、盛況らしいじゃん」
「好きでやってるんじゃねーよ。販売店の奴らが適当なことばっかり教えるから仕方なくやってんだよ」
仕方なくというのは、鷹也なりの照れ隠しだ。見た目がイカついので誤解されがちだか、鷹也は面倒見が良く年配の方々からもそれなりに慕われている。
「みんな凄いな……」
明音は感心したように呟いた。麻里達が当たり前に行っている創意工夫は、明音にはもの珍しく思えたようだ。
「褒めるくらいならジュース買ってこいよ。俺はコーラな。お前らは?」
「私はオレンジジュース!!」
「はいはい。コーラとオレンジジュースね」
槙島さんちの後継ぎを堂々とパシリにするのは鷹也くらいのものだ。
「麻里は?」
「なんでもいいよ。任せる。一緒に行こうか?」
「いいよ。すぐ戻る」
明音はぶっきらぼうにそう言うとウィンドブレーカーのポケットに手を入れ、受付棟の方へと歩いて行った。