惑溺幼馴染の拗らせた求愛
どこに行ったんだろう……。
あちこち探し回るよりはと思い、スマホを取り出す。しかし、メッセージを送る前に明音の居所がわかった。明音は売店の裏にある丸太のベンチにひとりで座り、空を仰いでいた。
「明音!!よかった、ここにいたんだ……」
「あ、ごめん。思っていたより時間が経ってたんだな」
「戻ってこないから心配したよ。火起こしで負けたのが、そんなに悔しかった?」
明音はあははと声を上げて笑った。
「火起こしで負けたのは確かに悔しかったけど、少し違うな。皆んなの話を聞いて、改めて自分の世界の狭さを思い知ってた」
麻里はベンチに腰を下ろした。普段とは異なる場所に来ていることで、明音の本音が聞けるかもしれないと思った。
「俺の仕事は主に槙島が持ってる土地や建物の管理と運営だ。でも土地さえあれば金が生まれるってわけじゃない。そこに生きて働いている人がいるから槙島がその恩恵に預かれる。だからさ、自分で道を切り開いていく麻里達を尊敬するよ、本当に……」
明音はそっと目を伏せた。
「俺もそっち側に行ければいいのにな」
槙島さんちの長男としてあらゆる物を手にしているはずなのに、恵まれた境遇が余計に明音を無気力にさせていた。
明音自身がこれまでの自分の生き方を否定するならば、肯定するのは麻理の役目だ。
「私は明音と幼馴染でよかったと思ってるよ。槙島さんちのツテのおかげで開業の時はすっごく助けてもらえたし。望む形とは少し違うかもしれないけど、明音だって私達の大事な仲間だよ」
明音は驚いたように目を見開き、そして先ほどとは打って変わったように穏やかに笑った。