惑溺幼馴染の拗らせた求愛
麻里はレジカウンターに肘をつき、はあっと大きなため息をついた。この日、麻里はお得意様のところに宅配に出かけている栞里に代わり店番を仰せつかっていた。
客も捌けて、暇になるとキャンプでされたキスのことを思い出さずにはいられない。キスひとつで恥ずかしいような焦ったいような、もどかしい気持ちにさせられて。最後の方なんか、自分から……。
ここが店の中でなければ、わあーっと声を上げてジタバタしているところだった。
「とんだ百面相だな。例の幼馴染と何かあったのか?」
いつも通りアイドルタイムに食事を摂りにきていたジローは見るに見かねて声をかけてきた。
「な、何もないです!!ジローさんはお姉ちゃんのことでも考えていてください!!」
ジローに相談などしたら、それは即ち栞里にも筒抜けということになる。ジローはしたり顔でコーヒーを口に運ぶと、何もかもを見透かしたようにそっと呟いた。
「モテる女は大変だな、麻里」
「からかわないでよ、ジローさん……」
「十回目のプロポーズで陥落する日も近いか?」
「お願いだからやめてください……」
麻里が懇願したその時、入口のカウベルが来客を知らせた。
「あ、お姉ちゃん。おかえり」
「た、ただいま……」
配達から戻ってきた栞里は浮かない表情で帰ってきた。はつらつが持ち味である姉のただならない様子に麻里は首を傾げた。
「何かあったの?」
「あ、あの……。その……。麻里、冷静に聞いてね?」
「どうしたの、藪から棒に……」
「明音くん、結婚するらしいの。大通りにある和菓子屋のヒラマツのお嬢さんと」
「え……?」
それは寝耳に水の知らせだった。