惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「もう帰ったら?仕事抜けてきたんでしょ?次はお店の営業時間内にプロポーズしてくるのはやめてね」
「麻里」
明音は店の中に戻ろうとする麻里を背後から抱き寄せた。急に抱きすくめられて、ドキリと胸が高鳴る。百六十センチの決して小柄とは言えない身体が明音の腕の中にすっぽりと収まる。体温を分け合うようにきつく抱き締められると、麻里はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「また来る。次こそは良い返事を聞かせてくれ」
明音は耳元で囁くと、プロポーズを断られたばかりだということをおくびにも出さずに、飄々とした態度で帰って行った。
驚いた……。
麻里は早鐘を打つ心臓を落ち着けるように深く息を吸った。明音の身体はいつの間にあんなに逞しくなったのだろう。麻里を抱きすくめる腕の力は予想外に強く、引き剥がそうとしてもびくともしなかった。
ひょろくて色白のモヤシみたいだった少年は今や存在しない。一丁前にブランドスーツを着こなし、不意打ちのようなプロポーズで麻里を翻弄する大人の男性になってしまった。
麻里は妙な寂しさに襲われた。時間の経過が憎らしい。男女関係なしに無邪気に遊んでいたあの頃には決して戻れはしないのだ。