惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「栞里、落ち着けよ」
「だって……!!」
「お姉ちゃんは何もしないで。明音には私から話をするから」
麻里は努めて冷静にそう言うと栞里と店番を代わり、自分の城である調理場へと引っ込んだ。二度目のピークタイムである夕方に向けて、一心不乱にサンドウィッチを作っていく。
話す?一体、何を?
これ以上話すことなんて何もないような気もした。ヒラマツのお嬢さんなんて、麻里が逆立ちしたって敵うはずない。たかがキスで浮かれていた自分が馬鹿みたい。
恥ずかしさと惨めさで頭が一杯になる麻里にとって、没頭できるものがあるというのは大変ありがたいことだった。胸に渦巻いていくどす黒い感情を掻き消すように、無心になりサンドウィッチを拵えていく。
大丈夫……。平気なんだから……。
そうやって自分自身に言い聞かせていれば、やがて冷静になれるだろうと思っていた。出来上がったサンドウィッチを並べていたトレーを盛大にひっくり返してしまうまでは。
ああ、もう……。
トレーの向こうに置いておいたセロハンを取ろうとした直後の出来事だった。調理場を預かる身としては、ありえない鈍臭いミスだった。
床に転がりベシャリと潰れたサンドウィッチは麻里の心を表しているかのようだった。
「なにやってんだろう……私……」
麻里は調理台に手をつき、しばしその場にへたり込んだ。