惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 初めてのプロポーズはうららかな春のことだった。桜の舞う中、川沿いを二人で歩いていた。
 二回目のプロポーズは夏だった。連日雨模様が続いた後の待望の晴れの日。
 三回目のプロポーズは秋だった。配達の帰りに銀杏並木で。
 四回目のプロポーズはクリスマス。ライトアップされた駅前のクリスマスツリーの前で。
 五回目はお正月。六回目はひな祭り。七回目は麻里の誕生日。八回目は台風とともに。
 九回目は三週間前。店の中で。

 麻里はこれまで明音から受けてきたプロポーズの数々を振り返り、十回目が訪れることはもうないんだなとしみじみと思った。

「ただいま」
「おかえり」

 明音が帰ってくると、座っていた暗く冷たい玄関の床からすっくと立ち上がる。今から帰ると連絡をもらった十分ほど前から、ずっと明音を待っていたのだ。

「どうした?わざわざ玄関待ってるなんて……」
「ヒラマツのお嬢さんと結婚するって本当?」

 他にやりようはいくらでもあったはずなのに、自分でも驚くくらい率直に尋ねてしまった。
 明音は目を見開きしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

「……誰から聞いた?」
「お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんは商工会の人から聞いたって」

 明音は結婚の話を否定してくれなかった。何かの間違いだと笑い飛ばして欲しかったのに、麻里の願いは粉々に砕け散った。
 いつから縁談が持ち上がっていたんだろう。
 この家に泊まり始めてから?それとも、最初のプロポーズの前から?

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