惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「好きだ。愛してる……。同じ気持ちなら、今すぐうんと言ってくれ」
少し動けばキスが出来そうな距離で懇願され、麻里はそっと目を伏せた。
ずるいよ……。
今まで愛してるなんて一度も言ったことなかったくせに、こんな時に限って言うなんて。熱っぽく見つめられると決意が揺らいでいくのが自分でもわかった。
もう抱きしめてもらえない。笑いかけてもらえない。愛を囁くことすらしてもらえない。失うのはあまりにも惜しい。
しかし、麻里は世界で一番残酷な台詞を言うしかなかった。
「ごめん……なさい……」
「……わかった。今まで困らせて悪かった」
明音は手を解き、麻里に謝罪した。
これが最後ならもう少しだけ繋いでいたかった。
「工事が終わったら出て行く。あと三日だ。我慢してくれ」
明音はそう言うと両親の部屋に入り、力任せに襖を閉めた。
明音がいなくなると麻里は背後の壁をつたうようにしてずるずると床に崩れ落ちた。世間体と引き換えに、大事な物を失ったのだと嫌というほど思い知った。