惑溺幼馴染の拗らせた求愛
翌朝、麻里が仕込みを終え朝食を取ろうと家に戻ってくると、既に明音は出掛けた後だった。いつもは仕込みが終わるまで出勤せず、待っていてくれていたのに。明確な拒絶を感じ、麻里は一人寂しく茶碗にご飯を盛った。一人きりの食事はどうしてか味気なく感じた。テレビをつけても寂しさはさほど変わらない。
すっかり食欲が失せた麻里は箸を置き、食卓に突っ伏した。
「どうすればよかったのよ……」
すぐに追い出そうとせずに明音の言い分を聞けばよかったのだろうか。
愛してると言う明音に同意すればよかったのか。
いくつものたらればを繰り返しても答えは見つからない。明音を深く傷つけてしまったという事実が麻里に大きな影を落とす。
槙島スカイタワーの最上階に住む明音と、地上であくせく働く麻里。これがグリム童話の世界なら塔の上にいる明音と最後には地上で幸せになれるのに。現実は都合よく話は進まない。
プロポーズを本気にしない方が楽だった。冗談なんだと都合の良い逃げ道を作ってそつなくやり過ごすのがいつしか処世術になっていた。明音もそんな麻里の弱さを許し、根気強く何度もプロポーズをしてくれた。
しかし、このままでは明音とはこれっきり、さようならだ。多分この先一生会うことはないだろう。律儀な明音は約束を違わない。
昨日は明音とのプロポーズに向き合う最後の機会だったのだ。