惑溺幼馴染の拗らせた求愛

 栞里と同じ空間にいるのが気まずくなり店の裏で段ボールを片付けていると、作業着姿の鷹也がやってきた。

「鷹也?どうしたの?」
「頼まれてた冷蔵庫のカタログ持ってきた」
「ありがと。助かる」

 沢渡家の冷蔵庫は購入から十年以上が経っている。近頃モーターが怪しい音を奏で始めたので買い替えを検討する必要があった。縁側のガラスも修理したばかりだというのに困ったものだ。届けてもらったばかりのカタログをパラパラとめくっていく。用件は済んだはずなのに、なぜか鷹也は帰ろうとしない。

「他にも何か用?」
「や、別に。元気かなって思って……」
「もしかして明音が結婚するって話、聞いたの?」
「今朝、……母さんから」

 鷹也はあっさりと白状した。元来正直者なので嘘をついたり、はぐらかすのが苦手なのだ。

「私もびっくりしちゃった。明音ってそっち方面の話って自分からしないし……」
「平気なのか?」
「平気もなにも喜ばしいことじゃん。相手があのヒラマツのお嬢さんならお似合いだよね」
「強がるなよ。気持ちの悪い笑い方しやがって」

 鷹也の語気が強まり、思わず麻里の愛想笑いが引きつった。

「ずっとプロポーズされてたんだろ?」
「な、んで……知って……!!」

 麻里は息を呑んだ。明音からプロポーズされていることは栞里とジロー以外には話したことがない。

「槙島から聞いた。キャンプの帰りに寄ったサービスエリアで」
「そっか……」

 一体いつの間にプライベートな話をするほど打ち解けたのだろう。麻里が仲を取り持つ必要はなかったようだ。

「心配して様子を見に来てくれたんだね。わざわざありが……」
「違う、そうじゃない」

 鷹也はお礼の言葉を遮ると自分の胸に麻里を抱き寄せた。カタログが手から滑り落ち、地面に散らばっていく。
 何が……起きているの?
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