惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「槙島と結婚しないなら、俺と結婚してくれ」
「鷹也……?」
「槙島とは恋人でも何でもないんだろ?なら、別に俺と結婚したっていいだろ」
振り絞るように真剣に訴える鷹也を麻里は知らない。
鷹也と結婚する。
これまで想像すらしたことがなかった。
そうか、明音以外の人と結婚してもいいんだ……。
鷹也の胸に顔を埋め、麻里は目を瞑った。鷹也との結婚生活は明音よりしっくりくるかもしれない。幼い時から見知った仲で、互いに似たような個人商店育ちだ。苦労はあるけれど、それなりに楽しく暮らせるに違いない。明音のことは懐かしい思い出として語られる日がやってくるだろう。昔、あの塔の天辺に住む人に九回もプロポーズされたことがあると……。
「麻里?」
鷹也から名前を呼ばれ、顔を上げる。
「何で泣いてんの?」
「え……?」
鷹也から指摘され初めて自分が涙を流していたことに気がつく。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに。涙が頬を伝っていき、もはや自分では止められない。
鷹也からプロポーズされて、ようやく自分の本当の気持ちに気がついてしまった。
「ごめん、鷹也。私、鷹也とは結婚できない」
だって、鷹也にプロポーズされた今でもこんなにも明音のことが恋しい。綺麗な思い出なんかにしたくない。
「プロポーズされるなら明音がいいの。明音じゃなきゃダメだった……の……」
麻里はその場にうずくまり、声を押し殺してさめざめと泣きだした。
明音のことが好きだ。
子供のように無邪気に笑うところも。急に大人の男性みたいにドキリとさせられるところも。全てが愛しい。
しんしんと降り積もる雪のような愛があるなんて初めて知った。
ごめんね、明音……。
麻里は心の中で何度も何度も明音に謝罪したのだった。