惑溺幼馴染の拗らせた求愛

 明音の元に栞里から連絡がきたのは、二時半頃のことだった。急な来客で会社を出るのが遅くなり沢渡家に向かっている途中だった。

「もしもし」
『明音くん、今どこにいるの?』
「立ち合いに向かう途中ですが……」
『麻里がどこに行ったか知らない?』
「家にいないんですか?」
『さっき業者の人から連絡があって、家の中に誰もいないみたいなの。ランチタイムの後に家に戻ったはずなのに。スマホも繋がらなくて……』

 沢渡家と店は歩いて三分もかからない。よほどのことがなければ、栞里に知らせる手間を惜しむとは考えにくい。嫌な予感が頭を支配していく。

「栞里さん、店ですよね?家の方は俺が見に行ってきます」

 明音は栞里との通話を終えると走り出した。合鍵で玄関の扉を開けると、麻里の名前を呼びながら家中を歩き回る。

「麻里!!」

 どれだけ明音が声を張り上げようと、麻里は出てこなかった。居間の片隅に麻里がいつも使っている手提げバッグが置いてあり、中身を広げてみたが財布もあるし現金も入っていた。部屋の中を荒らされた形跡もないことから、物盗りの犯行ではない。そもそも家の鍵は掛けられていた。決して広いとは言えない家の中に麻里の姿だけがない。
 所在もわからぬまま、明音はSAWATARIの入口をくぐった。

「明音くん!!どうだった?」
「どこにもいません。財布はありましたが……」
「麻里から連絡は?」

 そう尋ねると栞里は小さく首を振った。明音は歯をギシリと噛み締めた。自分が遅刻さえしなければ!
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