惑溺幼馴染の拗らせた求愛

 明音が自分への怒りで我を忘れそうになっていると、カウベルが来客を知らせた。

「どうした、二人して」
「ジローさん……」

 栞里は涙目になりながら麻里がいなくなったことを説明した。ジローは説明を一通り聞き終わるとコツンと栞里の頭を小突いた。

「スマホを持っているなら居場所はわかるかもしんねーぞ」

 ジローはそう言うとSAWATARIの事務スペースへと向かい、栞里がいつも事務作業で使っているノートパソコンを開いた。

「何してるの?」
「なんかあった時のために二人のスマホにアプリをインストールしただろ?スマホの電源が入っていればGPSで現在地がわかる」
「ジローさん、天才っ!!」
「知ってる」

 栞里に抱きつかれてもジローは顔色ひとつ変えずに、キーボードを叩き続けた。
 
「ほら、出たぞ。つーか、麻里の現在地ってこれ近所じゃねーの?」

 栞里と明音は互いに顔を見合わせた。ジローには分からずとも、二人には麻里がどこにいるか一目瞭然だった。
 
「ジローさん、助かりました。お陰で麻里の居場所が分かりました」

 更に言えば目的もはっきりした。

「栞里さんは店にいてください。必ず麻里を連れて帰ります」

 明音はそう言うと店から出てタクシーに乗り込んだ。行き先は既に決まっている。

「三丁目の槙島邸まで」

 この界隈でタクシー業に従事していて、槙島邸の名前を知らない者はいない。運転手は場所を確かめることなく車を発進させていった。
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