惑溺幼馴染の拗らせた求愛
あの日の母の言葉にようやく従える。麻里はあの頃のように訳もわからず怯えていた少女ではない。
「槙島の奥様、私達はもう立派な大人です。明音と私がどのような付き合いをしようと母親が間に割って入る必要はありません。……昔のように」
「……生意気ね。育ちの悪さが性根にででいるのかしら?」
口答えするなと言われても、こちらには素直に聞き入れる謂れはない。生意気な庶民育ちでわるうごさいましたねえ。
「あなた、うちの店子よね?明音への態度を改めないようなら追い出したって構わないのよ?」
麻里の表情が一気に苦々しいものに変わる。貸主からの不当な立退な違法だが、槙島の女帝にはそれを握り潰せるだけの力がある。
「勿論、ただでとは言いません。手切金として五百万渡します。貴女には十分な金額でしょう?わかったら明音の目の前に二度と現れないでちょうだい」
「……それはこっちの台詞だ」
行く先を知らせてなかったのに、特撮映画に出てくるヒーローのように突然明音が現れ麻里は度肝を抜かれた。
「明音!!」
思わず立ちあがろうとしてべちゃりと畳の上に倒れ込む。こんな時に足が痺れているなんて!
明音は麻里を助け起こすと、己の母親をギロリと睨みつけた。
「彼女を連れ出して……一体何がしたいですか?」
「私は貴方の為を思ってやってるのよ」
「俺のため?笑わせる。金儲けのためでしょう?」
明音は麻里の身体を更に引き寄せた。
「麻里、帰ろう。栞里さんが心配してる」
「勝手なことばかりして……少しは弟を見習ったらどうなの?いい加減にしないと長男とはいえ見限るわよ」
「どうぞご自由に」
売り言葉に買い言葉とは言え、実の親子とは思えない会話だった。麻里はハラハラしながら明音の顔を見上げた。
「もし、貴女が麻里に何かしたら弁護士を用意します」
明音はそう言い捨てると、麻理を連れ槙島邸を後にした。