惑溺幼馴染の拗らせた求愛

「ただいまー」
「麻里っ!!」

 家に戻るなり栞里が玄関から飛び出し、麻里に駆け寄ってきた。

「ああ良かった!!どこに行ったのかと思ったわ!!」
「ごめんね、心配かけて」

 連絡もなしに出掛けてしまったので当然だろう。槙島家を出てからスマホを確認したら、メッセージと電話をたくさんもらっていた。槙島家の使いの人に両脇を挟まれ、とてもスマホを触れる雰囲気ではなかったのだ。

「そういえば業者さんは?」
「帰ってもらった。後日もう一度日程を調整することになった」

 麻里の疑問には栞里の代わりに明音が答えた。

「あ、そうなんだ。悪いことしちゃったな」

 麻里の無事を確認すると、栞里はジローの部屋へ帰って行った。明音と二人きりにされると逆に困ってしまう。仲違いをしてからまともに顔を合わせるのは初のことだった。

「俺も、帰るから」
「え、あ!?帰っちゃう……の……?」

 恐る恐る尋ねると、むぎゅりと鼻を摘まれた。

「あざとい女子が好きそうな陳腐な台詞なんか使うなよ。こっちは九回も直球ストレート投げてんだぞ」

 明音は口をへの字に曲げて、不満をもらした。いつも明音は本気だった。一度として冗談でプロポーズしてきたことはなかった。今度こそは完全に愛想を尽かされたと思っていたから、迎えに来てもらえて死ぬほど嬉しかった。ほんのひと欠片でも麻里への想いが残っているとしたら……。

「好きなのっ!!明音のことが好きなの!!お願い……どこにも行かないで……っ!!傍にいて……」

 麻里はそう言うと死に物狂いで明音にしがみついた。もう二度とお別れなんて言いたくない。

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