惑溺幼馴染の拗らせた求愛
約束した通り麻里は仕事に手を抜くどころ、むしろ精力的に働いた。栞里から許可をもらい、キャンプの時に作ったホットサンドも売り出し始めた。今のところ概ね好評で、毎日店にやってくるジローは必ず注文するようになった。
そんなある日のことだった。
「売り切れ……ですか?」
「申し訳ありません。チキンサンドも卵サンドもいつも昼過ぎには売れ切れてしまう人気商品なんです」
店頭から困ったような栞里の声が聞こえてきて、麻里は調理場から耳をそば立てた。
「そうなんですか……。こちらのサンドウィッチが美味しいと評判だったので差し入れにどうかと思ったのですが……」
「お姉ちゃん、さっき追加分が出来上がったところだからすぐ用意できるよ」
こっそり近づき後ろから話しかけると、栞里がホッとしたように頷いた。
「よろしければカウンターで座って待っていてください」
「わあ……!!嬉しい……」
栞里が接客していた女性は小さく手を叩き喜んだ。麻里と同じ年頃の女性だったが、椿柄の藍色の着物を着ていた。サンドウィッチを買っていく和装の若年女性は珍しい部類に入る。
「お待たせいたしました。チキンサンド二つに、卵サンド三つです」
「ありがとうございます」
栞里がサンドウィッチの入ったレジ袋を持っていくと、女性はお辞儀をして受け取った。
肩口で綺麗に切り揃えられた艶やかな黒髪と美しい所作に麻里はしばし見惚れた。不躾な視線を感じたのか、女性が麻里の方にも目をやる。二度目のお辞儀は一度目よりも深い角度だった。
あ……。
品物を受け取ったお礼以上のものを感じとり、麻里は全てを察した。この人が明音の結婚相手だと。