惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「遅い……」
夕食の支度を終えた麻里はすっかり待ちぼうけを食らっていた。明音はいつもは遅くとも七時には帰宅するはずなのに、時計は既に八時を指している。
今晩のおかずはコロッケ。明音が好きだと言っていた父のレシピだ。揚げたてを食べてもらいたくて、パン粉をつけた状態で揚げずに待っているのに。いつ帰って来るのかメッセージを送っても、スマホはうんともすんとも言わない。いい加減ちゃぶ台の木目も見飽きた。
「早く帰ってこないと一人で食べちゃうから……」
待ちくたびれた麻里は日頃の寝不足も祟り、コタツでうたた寝をしてしまった。目が覚めた時には、すっかり夜が明けていた。
え、うそ……。もう朝……!?
コタツから飛び起きた麻里はスマホを確認した。返信がきていない。そして、家中を探し回っても明音の姿はどこにもなかった。
「ちょっと麻里!!あなた、寝坊して……」
「お姉ちゃん!!明音がどこに行ったか知らない!?」
麻里は店に飛び込むと、寝坊の謝罪をそっちのけにして栞里に明音の行方を尋ねた。ただならぬ様子に栞里も目を丸くする。
「明音くんがどうかしたの?」
「昨日から帰ってきてないの……。おかしいよ。明音が泊まるようになってからこんなこと一度もなかったのに!!」
栞里は腕を組み、少しの間考えた。
「鈴菜ちゃんと鷹也くんにも聞いてみましょう。私もジローさんに電話してくる」
麻里と栞里は協力して方々に連絡をとってみたが、結局誰ひとりとして明音の行方を知る者はいなかった。