惑溺幼馴染の拗らせた求愛
麻里と栞里は沢渡家の居間で途方に暮れていた。どこを探しても明音が見つからない。
「こんなことになるなら、明音くんの居場所もわかるようにしておけばよかったわね」
麻里は静かに頷いた。せめてどこで何をしているかくらいはわかればいいのに。残された荷物に何か手掛かりがないかと探してみたがこちらも空振りだった。八方塞がりとはこのことだ。
「ごめんください」
インターフォンが鳴り、麻里は玄関へと駆け出した。明音の行方を知っている誰かかもしれない。
「朝早くから申し訳ありません。私、平松粧子と申します」
沢渡家の玄関に立っていたのは先日店でサンドウィッチを購入していった着物姿の女性だった。女性は非礼を詫びると深々とお辞儀をした。
「明音さんはご在宅でしょうか?実は昨日から連絡が取れなくなりまして……」
「そんなのこちらが聞きたいです。貴女こそ明音がどこにいるかご存じなんじゃないですか?」
平松と名乗ったことからわかる通り、粧子は明音の結婚相手だ。麻里の推測は当たったことになる。無意識のうちに言葉に棘が生えてしまう。
「ああ、やっぱり……」
粧子は麻里の返答を聞くと、控えめに口元を押さえた。
「昨夜、父から結納の日取りが決まったと言われました。明音さんの身に何かあったのではと思い、こちらに伺ったのですが……遅かったようですね」
てっきり粧子は槙島家の後継ぎである明音との縁談に乗り気だと思っていたが……そうでもない?むしろ、嫌がっている?
「貴女は……私と明音のことを……」
「明音さんからすべて伺っております」
明音から何がどう伝わっているのか知らないが、粧子は上品に微笑んだ。