惑溺幼馴染の拗らせた求愛
立ち話もなんだからと居間に案内し、お茶を淹れる。ジローも合流し三人で粧子の話を聞くことになった。
「二丁目に大きなケヤキの木がある古民家があるのを存知ですか?」
「はい」
高さ十メートル、樹齢五十年を超えるケヤキの木は道路からもよく見える。個人宅には珍しくキチンと手入れがされており、定期的に枝が剪定されている。
「その古民家には現在、私の大叔母が住んでおります。私の祖父の妹ですね。実は今あの辺り一帯には槙島家主導による再開発計画が持ち上がっておりまして、大叔母も立ち退きと土地の売買を要求されています」
「はあ……」
いきなり粧子の大叔母の話を持ち出され、麻里は曖昧な相槌を打つしかない。
「大叔母は断固として拒否していたのですがつい三ヶ月ほど前、槙島家の方と私が結婚したら立ち退いてもいいと言い出したのです。こっそり理由を尋ねたところ大叔母は昔、槙島の先代と秘密の恋仲だったようで……」
秘密の恋仲と聞いて、俄にこの場が沸き立つ。槙島の先代とは明音の祖父のことである。既に故人だ。
「大叔母様はおいくつですか?」
「今年八十歳になりました」
粧子の言うことが本当なら、彼らが心を通わせ合ったのは半世紀以上も前の話になる。現在よりも家同士の結びつきが重要とされた時代、純愛を貫くのは難しかったのだろう。