惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「元々、槙島家の皆さんとは数年に一度顔を合わせる程度で特に親しくしていたわけでもありません。私も降って湧いたような縁談で戸惑っていたところ、明音さんも自分もだとおっしゃいました」
粧子は本当に困り果てていた。今時、本人の意にそぐわない政略結婚をさせるというのはいかがなものか。
「明音さんに恋人がいらっしゃることも存じ上げておりました。この度は麻里さんに大変不愉快な思いをにさせてしまい申し訳ございませんでした」
「そんな……顔を上げてください!!」
粧子は三つ指を畳について麻里に詫びた。事情を全て聞いた今、粧子が悪いとは到底言い切れない。それに今は謝罪よりも先にしなければならないことがある。
「結納はいつなんだ?」
ジローは身体を起こした粧子に尋ねた。
「来週の日曜です。槙島パークホテルの胡蝶蘭の間で行われる予定です」
「どうする?麻里。流石に結納の席に主役が不在ってことはねーだろ」
「明音を連れ戻す」
「本気か?」
「うん、本気。やっぱり待つだけなんて性に合わないもん」
明音がいなくなったのは、おそらく槙島家の手によるものだ。これで結納が済んでしまったらもう手出しはできない。
「みんな、協力してくれる?」
麻里は覚悟を決めていた。あの日、明音が槙島家まで迎えにきてくれたように、今度は麻里が明音を迎えに行く。