惑溺幼馴染の拗らせた求愛

 明音はこの縁談が持ち上がった当初から粧子に自分の事情を包み隠さず伝えていた。槙島の家と確執があること、他に愛する女性がいること……。
 粧子は明音の気持ちを汲んでくれて、縁談を白紙にするために大叔母への説得にあたってくれていた。しかし成果は実らず、とうとう結納の日を迎えてしまった。槙島か麻里か、どちらかしか選べないなら麻里との未来を選び取る。明音が母からの要請に素直に応じたのは最初からこうするつもりでいたからだ。

 粧子は呆れたように深いため息をついた。

「……お返ししますね」
 
 決死の思いで認めた絶縁状を突き返された理由がわからず、明音は戸惑いを隠せなかった。

「貴方の好きになった女性は貴方にだけこのような犠牲を払わせて、それを良しとする女性でしょうか?」

 粧子の言葉にドキリと心臓が跳ね上がった。粧子の言う通りだった。絶縁するつもりでいることを麻里が知ったら絶対に反対するだろう。黙ってこっそり準備を進めていたのは、後ろめたさを隠すためだった。
 粧子はなぜか麻里の人柄を正確に把握しており、明音に的確な反論をしてきた。

「明音さん、諦めるのはまだ早いですよ。麻里さんを信じてあげてください」

 粧子は最後に明音への餞に良き友人としてのアドバイスを贈った。
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