惑溺幼馴染の拗らせた求愛
『元気か?』
『最近、暑いな?』
『二丁目に新しい飯屋が出来たらしい』
明音の発する話題はいつもほんの些細なこと、言ってみれば至極どうでもいいことばかりだった。
ただ、自分のことを気にかけてくれる誰かがいると思うだけでも不思議と優しい気持ちになれた。
父の葬儀から二年後、栞里と店を再開すると決めた時はいの一番に報告した。明音は自分のことのように喜んでくれた。喜ぶだけでは飽き足らず、槙島さんちの伝手を惜しげもなく使い、開業に漕ぎ着けるまで面倒を見てくれた。
リフォーム業者の手配、銀行への融資の取り付け、仕入れ先となるベーカリーの仲介など、明音の手助けは多岐に渡った。栞里と麻里だけでは到底全てに手が回らなかっただろう。明音には感謝してもしきれない。
しかし、それとこれとは話が別だ。
何でプロポーズなんかしてくるのよ……。
麻里は心の中で毒づいた。
それは何の予告もなく突然始まった。SAWATARIがサンドウィッチ店として新たな一歩を踏み出してから、僅かひと月後のことだった。
「麻里、俺と結婚してくれ」
人生初めてのプロポーズは良く晴れた春の日のことだった。桜の花びらが舞う中、川沿いを並んで歩いている時だ。
願わくばずっと親切な幼馴染でいて欲しかった。