惑溺幼馴染の拗らせた求愛
「麻里、戻ってたの?ちょうど良かった」
二人の様子を生暖かく見守っていると栞里がようやく麻里の存在に気がついた。
「ジローさんがね、今夜夕飯を一緒に食べに行かないかって。ほら、大通りの角のところに新しくレストランが出来たでしょう?どうかな?」
どうかなって……。
栞里の言うレストランは、控えめに灯された照明がどことなく落ち着いた雰囲気を醸し出す、どこからどう見てもカップル向けの佇まいだ。
「私はいいから二人で行ってきなよ」
「遠慮すんなよ。奢りだぞ」
「でも……」
奢りは正直嬉しいけれど、姉とその恋人と一緒に夕飯なんて冗談が過ぎる。ジローのことは良い人だと思うし決して嫌いじゃないが、恋人同士の逢瀬を邪魔するほど無粋ではない。
麻里はこの場を穏便に切り抜けるための妙案を咄嗟に閃いた。
「いっけない忘れてた!!今日は明音とご飯を食べに行く約束してたんだった!!」
「そうなの?」
「うんうん。だから私のことは気にせず二人でどうぞ」
我ながら下手くそな芝居だと思ったが、栞里からそれ以上追及されることはなく、麻里はホッと胸をなでおろした。