冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

「えっ、はい……! 是非」

伊織さんに誘われるなんて夢にも思わず、緊張が走る。
彼の後に続き、ホテルの一階にあるフレンチレストランへとやって来た。
ここは価格帯が高いので、クルーになってから数えるくらいしか利用したことがない。

「わ、うっとりしますね……この景色」

「でしょ」

伊織さんはシェフに口が利くのか、サンセットが眺めるオーシャンビューの特等席に通してもらえた。
彼は目の前ののどかな海は見ずに、こちらに微笑みかけてくる。

(伊織さんとふたりきりで食事とか、頭がついていかない)

こんな姿を他のクルーに見られたら八つ裂きにされそうだ。
でも不思議。
緊張で心拍は早いが、以前のような胸のときめきや激しい胸の動悸はないし、平常心を保って座っていられる。
駆さんのときは、見つめられるだけで恥ずかしいというのに。

そうこうしているうちに、コース料理が運ばれてくる。
フルーツトマトにキャビアを乗せ口に運んでいると、伊織さんはカトラリーをテーブルに置いた。

「もう顔合わせから四カ月くらい経つのか。あれから駆との生活はどう?」

「ええ、すごく充実していますよ。駆さん優しいですし」

時間が合えば語学を教えてもらっていることや、駆さんが家事を率先してやってくれていることを話したら、伊織さんは心底驚いたような顔をする。

「それに、お花も定期的に買ってきて飾ってくれています。私たちが仲良くなれるように努……」

言いかけてハッとする。
急に口ごもる私に伊織さんは半笑いで首を傾げた。

「もう十分仲がいいじゃん。あ、もっと仲良くなるためにってことかな」

「あはは、そうですね」

(いっけない。うっかり口を滑らせるところだった)
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