冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
「え?」
鋭いところを突かれ、表情が固まる。
そんな私に伊織さんはいつものような穏やかな笑みを浮かべた。
「駆が安奈ちゃんのことが好きなのはなんとなく気づいていたけど、安奈ちゃんからはまったく駆に気があるようには見えなかったし……それに結婚願望が全くなかったのに、俺と有紗の婚約が決まってすぐ、結婚するって言い出したからおかしいなって」
「えっと、いったいどういう意味ですか……?」
伊織さんの言葉全てが理解できず思ったことを口にする。
と、彼はメインのお肉を切り裂きながら軽い調子で笑いかけてきた。
「駆の初恋の相手は有紗だから、急に寂しくなったのかなと。それにアイツはああ見えて負けず嫌いだから対抗心燃えたのかなって……でも全然違ったよ」
伊織さんの言葉に、ドクッと大きく心臓がなる。
「駆は安奈ちゃんにぞっこんだし、安奈ちゃんも駆のこと深く想ってるし、俺たちが見えないところでちゃんとふたりは愛を育んでただけだった」
「えっと」
それが私たちが夫婦らしくなったのはつい最近のこと。
本当は偶然が重なり、利害が一致して一緒に暮らし始めただけなのだ。
以前顔合わせの時に聞いたお義母さんの言葉が、ふいに脳裏に蘇る。
『駆と伊織は年も近いし、昔からライバルみたいな感じなのよ。ことあるごとにいつも競い合ってたわ』