冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
伊織さんの声に意識を引き戻され、無理やり笑顔でナイフを動かす。
「すみません、黙り込んじゃって」
「ううん、もし食欲がなかったら無理しなくていいよ」
「ありがとうございます」
口に含んだお肉を咀嚼し、頑張ってごくりと飲み込んだ。
(いや、さすがにマイナスに考えすぎかも。駆さんから何も聞いてないんだし)
心の中で必死に言い聞かせ、なんとかメイン料理は食べ終えた。
けれど……一度落ちた気持ちは浮上せず、静かにカトラリーをテーブルに置く。
「伊織さん、あの……本当にごめんなさい。急に疲れが出ちゃって、お先に失礼してもよろしいですか?」
「ほんとだ、顔色悪いね。部屋まで送るよ」
何度も遠慮したけれど、あまりに私の体調が悪そうに見えたのか伊織さんは親切に身体を支えてくれた。
そのまま店を出て、エレベーターホールまでやって来る。
「無理に付き合わせちゃったかな。ごめんね」
「いえっ、そんなことは。また是非ご一緒させてください」
お見送りをここで切り上げてもらおうとしたその時だった。
背後に人の気配を感じ、なんとなく視線を後ろに向ける。
「安奈」