冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
聞こえてきた声に振り返ると彼は先に乗り込んでいた。
気まずい気持ちで彼に続くと、扉が閉まり、エレベーターは上昇していく。
重苦しい空気を変えたかった私は、手に持っていたお土産を駆さんに渡すために横を向いた。
「駆さん、これ」
「やっぱり安奈は伊織がいいんだよな」
(えっ?)
こちらを見下ろす冷ややかな瞳に、胸をギュッと締め付けられる。
「別に俺たちは本当の夫婦じゃない。あいつと食事に行くなり、肩を組んだり好きにすればいい」
「……っ」
駆さんはそう言って、おもむろに視線を外した。
私の気持ちなんて受け入れる気のない冷めた横顔に、涙がじわじわとこみ上げてくる。
(いつも壁を作って、私を受け入れない姿勢……いったいなんなの?)
傷つけられた記憶も蘇り、怒りがふつふつと湧き上がる。
「そういう駆さんだって、菅原チーフと会ってたくせに」
声を荒げた私に、駆さんはわずかに目を見開いた。
「私と結婚せずに伊織さんから奪って結婚すればよかったんじゃないですか? これ」
手に持っていた紙袋を突き付けたタイミングで、エレベーターが停止する。
「私と結婚したのも、伊織さんへの当てつけだったくせに。駆さんなんてだいっきらい!」
「安奈!」
駆さんが追いかけようとしたのは分かったけれど、私がエレベーターから降りてすぐ扉が閉まる。
部屋に向かって伸びる廊下を歩きながら、次々と涙が溢れてきた。
「あんな言い方……ひどい」
(やっぱり私のことなんとも思ってなかったんだ。好きだったのは私だけだった)
本当の夫婦じゃない……私だってそう思っていたはずなのに。
一番聞きたくない言葉に変わって、胸を切り裂かれた。