冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
「そんなにも前から……よく結婚までこぎつけたな」

伊織は温かい目でこちらを見つめる。

安奈の無垢な笑顔、不器用だけど誰よりもまっすぐで一生懸命なところ。
いつも明るいキャラクターで振舞っているが、実は控えめで現実主義な一面があるところ。
少しだけ怒りっぽいところを含め――全部、愛している。

「安奈は、数年間多額の仕送りを親にしていることを言ってくれていなかった。だから……仲は良かったが、少し距離は感じていたんだ」

「え、仕送り?」

胸に秘めていた気持ちを伊織に吐き出し、少しだけ体が軽くなる。

数日前、安奈の父親から連絡があった。
以前働いていた会社の社長が多額の借金を残しとん挫して、倒産、リストラに遭っていたらしい。

最近微々たる額だが国を通じて未払いだった給与と賠償金が支払われ、安奈からもらっていた仕送りをいくらか返したいという内容だった。
安奈は取り合ってくれないらしく、夫である俺に相談したのだという。

契約を結ぶときも、一緒に暮らしてからもそういった話を彼女の口から聞いたことがなく、驚愕した。
彼女の今までの節約生活の理由が腑に落ちたのと同時に、部外者だと言われているような気がして悲しかった。
もちろん既に安奈の実家と話を済ませ、足りない額は俺が立て替えることになった。

「でも、俺が安奈を信じ切れていなかっただけだ。安奈は優しい子だから夫である俺に迷惑かけたくない気持ちでいてくれたんだろう」

「そうだね……」

伊織も驚いた表情で視線を落とす。
今すぐにでも抱きしめて思いを伝えたい。
安奈のことを本気で愛していて、一生添い遂げたいと。
そして何も心配がいらない生活を守り続けたいと――。

「ちゃんと全部伝えなよ? 明日は安奈ちゃんも早朝の便だから、羽田に戻ってから仲直りだね」

「ああ、そうするよ」
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