冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

台本通り




こうして私は五十嵐さんとの契約結婚を決めた。
彼は私の返事を見込んでいたのか、とにかく用意周到だった。
一週間後に羽田のカフェで落ち合うと、早々に彼が用意した契約書にサインと婚姻届けの記入を済ませる。ただしすぐに役所に届けるというわけにはいかず、一般的な結婚の順序を踏むことを命ぜられる。それは五十嵐さんが大手薬品会社の社長の息子という由緒正しいお家柄だったからだ。うちの家はすぐに結婚しなさい!と言っていたけれど。

「――じゃ、打ち合わせ通り『必ず』俺が質問してから、君が応えてほしい。たとえ両親や伊織に質問されたとしても、一度笑顔ではぐらかし、アイコンタクトを必ずする。いいか?」

「はい、承知しております」

見るからに上質そうなスーツを着た五十嵐さんは、前を見据えながら淡々と私に告げる。
彼の視線の先にあるこのお屋敷のような家が、ご実家らしい。
豪奢な門の扉に手を掛けた五十嵐さんは、どこぞの御曹司のようだ。パイロットの面影はいっさいない。

(まぁ、御曹司は御曹司なのか)

五十嵐さんの契約結婚を承諾したのが、十日前になる。
その間に、私の実家へも結婚報告へ行き、今日は彼の番というわけだ。

私も身なりにかなり時間をかけたのだが、彼は感想をくれるどころか、まともに見てもくれてない。
ヘアスタイルはハーフアップで、ベージュのAラインワンピースを着き、小花がついたお高めのパンプスを卸し、義理の両親に受けるスタイルを意識したけれど。

(あ、いっけない。五十嵐さんに怒られるところだった)

ポッケから取り出したダイヤの指輪を、急いで左手の薬指に通す。
これは、契約時に彼から小道具としてプレゼントされた婚約指輪だ。
内側に互いのイニシャルが刻まれているという徹底ぶりで、完璧主義者の彼らしい。芸が細かくて感心する。

「本当に村瀬さんが我が家に来ちゃった。今日はゆっくりしていって」
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