冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
(この悪循環をどうしたらいいものか)
悶々としたまま玄関の扉を開くと、ちょうど安奈が自分の部屋から出てくるところだった。
髪はまっすぐ下ろしているが、メイクを施し出勤服を着たままだ。
ようやく動悸が落ち着いてきたところだったが、再び速くなっていく。
「あ……お疲れ様です」
「お疲れ様。今帰宅したのか?」
「はい……」
まさか会えるとは思っておらず、内心嬉しくて仕方ない。
しかし彼女は怯えるような眼差しを俺に向けると、足早にその場から離れていってしまった。
(やっぱり、あの日から様子がおかしい)
忘れもしない一週間前――安奈が俺のために土産をくれ、『もっと仲良くなりたい』と伝えてくれた日だ。
彼女の優しさに頭が真っ白になり、いつもの様に自然に振舞えなかった。
緊張で笑顔ひとつ浮かべられなかったのだ。
(あんな態度じゃ、嫌な思いをするに決まっていたんだ)
いつまでもこんなことが、許されるわけがない。
何度も俺との距離を縮めようとしてくれた彼女だったが、ついに見切りをつけたのだろう。
今まで甘えすぎた当然の報いだ。
(今までのことを、安奈に謝りたい)