冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

幸いなことに玄関には、安奈の靴が置かれていた。
今晩は同じ時間帯に家にいるということだ。
逸る気持ちを抑えつつ、一旦花束を置くためにリビングの扉を開く。

「!」

部屋の一番奥まった場所にあるソファに安奈が寝ころんでいるのが見えた。
ブランケットを羽織り、見るからに気持ちよさそうに微笑んでいる。

「スペイン語?」

ソファの前に置かれているローテーブルには、本が山積みになっている。
ノートも数冊開いたままになっており、ペンも何本が散らばっていた。

本を一冊手に取り、適当にページをめくってみる。やけに年季が入った本たちだ。
どうやら彼女は図書館で借りてきて、勉強に励んでいたらしい。

(わざわざ借りてくるなんて、本も買わないのか?)

彼女と暮らし始めて一番意外だったのは、とにかく質素な生活をしているということだ。
他のクルーたちと旅行へ行ったりもしていなさそうだし、食事は自炊、ファッションも必死で流行を追っているという感じはない。何不自由なく生活できるように支えているつもりだが、時折我慢させてはいないかと心配になったりもする。

(きっと浮いたお金は、貯金へ回しているのだろう)

天真爛漫な彼女だが、中身はしっかりしていて倹約家なのだ。

「知らなかったことばかりだな」
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