冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

重ねて衝撃を受ける。
駆さんの話によると、菅原チーフのお父さんが操縦するジャンボジェットに招待された時に大きな感動を覚えたらしい。
人の足じゃ到底行くことのできない、はるか遠い場所に連れていってくれるパイロットに尊敬を覚えたと。

「窓の向こうに広がる雄大な夕焼けが未だに記憶にこびりついている。この景色を毎日観られるなんて羨ましくて、俺も有紗の父親みたいになりたいと思った。そんな浅はかな理由だ」

「全然……素敵ですよ」

子供ならではの可愛らしいエピソードを聞いて、心が温まる。
菅原チーフと駆さんとの関係を、変に妄想しちゃったことが申し訳ない。
彼らはもっと深いところで繋がっていたのだ。

「安奈は、なぜクルーに?」

「えっ、私は」

駆さんはまっすぐ私の瞳を見つめながら答えを待っている。
――私は、家族でたった一度だけ行った沖縄旅行でクルーのお姉さんが忘れられなかったからだ。
はしゃぐ私と弟におもちゃをくれた後に、『沖縄旅行、素敵な時間になりますように』と綴られた可愛いくじらのカードまでくれた。それは今でも取っておいてある大切な宝物だ。

「……自分がクルーになってみて、当たり前のことをしただけだと気付きました。けどお客さん側だったあの時は、彼女のおかげで忘れられない沖縄旅行になったんです。だから私も、そうやって関わってくれた人みんなに、小さな幸せをおすそ分けしたいなって思います」
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