純心と屈折と/少年に心を掴まれた少年
その4



律也が長椅子に座って待つこと10分…。
辺りが騒がしくなってきた。


”彼らだ…。遊戯室から出てきたんだ”


案の定、バク転に興じていた8人のうち5人と、取り巻きの少女6人が笑い声をあげながら、エントランスに入ってきた。
そしてその中にユウトの顔もあった…。


「ああ、トイレ行ってくるわ」


「オレも…」


「私たちも…」


律也は彼らのそんなやり取りを確認すると、一旦顔を下に向け、先ほど借りた本を読んでるフリをした。
しかし、耳はしっかりとそばだて、ユウトの気配を負うことに集中している。


彼の結論はでた。
ユウトはトイレに入ると…。


***


ここで彼は顔を上げた。
そして次の瞬間には、彼と目が合っていた。


ユウトはすぐに気づいてくれた。
すると、白い歯をのぞかせた例のスマイルを浮かべ、右手を上げてこっちに会釈してる。
それを受けた律也も、ちょこんと頭を下げて応えた。
こちらははにかんだ、やや引きつった笑顔で…。


***


彼は隣の友達に何やら言葉をかけたあと、律也の座っている長椅子に向かって小走りしてきた。


「やあ、また会ったね」


彼は気さくに声をかけてきた。


「うん。今日は調べ事があって、本を借りに来たんだ。図書館は家から近くないし、この雨だから…」


律也は、”ここにいる”理由と動機と必然性をにユウトに語告げた。
まずもっては。
手にした宇宙の本をかざしながら…。


***


「へー、そうなのか…。ああ、宇宙の本じゃん。そういうの、興味あるんだ‥」


”キミにはもっと興味があるんだ!”


これが律也の本音だったが…。


「オレも結構好きだよ、宇宙人とかも(苦笑)」


律也は思わず吹き出すように笑った。
そんな彼を見届けると、ユウトは律也の隣に座ったのだった…。


***


「オレ、さっき見たよ。キミのバク転…」


彼が腰を下ろしたと同時に、律也は正直にそう言った。


「そうか。で…、どうだった?」


「美しかった…」


この言葉は自然と出た。
しかも、意識せずにユウトの顔を真顔で見つめながら…。
純な二つの瞳を以って…。



< 13 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop